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「僕が神様になった暁には、キミに世界の半分をやると言ったらキョンはどうするのだい?」 「くだらないな。俺は世界なんて興味はない。飄々と平凡な人生を送ることを心から望むね」 「くっくっくっ。ならば僕と結婚したらキミに平凡な生活をプレゼントしよう。それならキョンはどうするかい?」 「そうだな、どうせならある程度までは自分の力で平凡な生活を手に入れるさ」 「……。ではキミは僕に何を望むんだい?」 「佐々木は佐々木で佐々木のまま、ありのままでいてくれることかな。それか、女言葉で話してみてもらいたいという願望は無きにしも非ずだ」 「ならば女言葉で話せばキミは「まあ結婚なんて考えてないけどな」」 「……」 「ひ、光がある限り闇もまた・・・」 「おっ、もうこんな時間か。暗くなるから帰ろうぜ」 「・・・・・・」
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長かった梅雨もようやく終わり、夏本番がいよいよ近づいて来た7月の初めのことだった。 放課後、一人で先に文芸部室に向かい、扉を開けるとそこには先客がいた。 「ミャア。」 小さいが、元気そうな声で鳴く、掌に載せられるような子猫。 何でこんなところに、子猫がいるんだ?どこから入り込んだ? 子猫は俺の顔を見ても、逃げ出す様子もなく、むしろ何か催促するようにミャアミャア鳴いて、俺の傍によって 来た。よく見ると、こいつは三毛猫のようだ。純粋かどうかわからんが、毛並みはそれっぽい。 困ったな、何かこの猫にやる物はないかな。 俺が考え込んでいると、ふと視界に冷蔵庫が飛び込んできた。最近、佐々木の親戚から貰った2ドアの中古品だが、 氷も作れるし、物は冷やせるし、便利なものだ。ディスカウント店の安売り開店セ-ルに、国木田と並んで買ったオ- ブントースタや単機能電子レンジと並び、我が文芸部の三種の神器となっているが、その中に、アイスコ-ヒ-を作る ために買っていた牛乳が入っていたはずだ。 だが、待てよ。子猫に牛乳はまずかったんじゃなかったかな。何か昔そんな話を聞いたような、、 とりあえず、牛乳を取り出そうと思い、冷蔵庫の扉を開けると、そこには子猫の絵がついた紙袋があった。 俺が首をかしげながら袋をあけてみると、そこには子猫用の餌と思しきキャットフードが入っていた。 ふむ。俺はそう呟く。 この状況から想像するに、この子猫は入り込んだのではなく、誰かが部室に連れてきたのだ。昨日は猫はいなかった。 佐々木は俺と一緒に朝登校したので、俺と佐々木は除外。となると、長門か朝倉か国木田だが、まあ、国木田は考え にくい。 となると、長門か朝倉だな。二人がきたら聞いてみよう。 そんなことを考えていると、佐々木が部室へ入ってきた。 「キョンお待たせ、、、ん?どうしたんだい、その子猫は?」 さあな。多分長門達が何か知っていそうだが、聞いてみないことにはわからん。 「ふうん。それにしても可愛い子猫だね。」 そう言いながら、佐々木は子猫を静かに抱き上げ、何度か頭をなでると、今度は机の上に置き、指を動かして子猫をじゃれ させ始めた。 猫じゃらしを追いかけるように、子猫は佐々木の指を追いかけ遊んでいる。そんな様子を見て、佐々木もご機嫌になったのか、 歌を歌いだす。佐々木の好きな洋楽の、題名は忘れたが、たまに口ずさむ曲。 微笑みを浮かべ、子猫をあやす姿は、まるで子猫の母親のようだ。 気がつけば、俺も一緒に佐々木と子猫を遊ばせていた。 その後長門がやって来て、話を聞くと、子猫はやはり長門が連れてきたものだという。一昨日の夕方、長門がマンションの駐車場 で見つけたのだという。どうやら、誰かが捨てていったらしい。そうでなければここまで人になついてはいない。 長門のマンションではペットを飼うには許可がいる。しかも市の条例で、ペットの飼い主は届け出をしなければならない。 とりあえず、その日は少し餌をあげて立ち去ったのだが、子猫は次の日も同じ場所にいたらしい。 このままだと、捕まって保健所に引き渡される可能性もあったので、学校に連れてきたらしい。 だけど、結局問題は何一つ解決していないのである。 で、それからどうなったか? 結論から言えば、その子猫は俺が引き取ることになった。 遊んでいて情が移ってしまったのか、それとも佐々木にうまく言いくるめられたせいかわからんが、まあいいだろう。 長門が喜んでくれたんで、良しとしよう。 喜んだのは長門だけでなく、我が妹も大喜びだった。なんでも猫がほしいーなと思っていたそうで、そこに俺が猫を連れて 帰ってきたので、妹ははしゃぎまわっていた。 おい、妹よ。おもちゃじゃないんだから、生き物はもう少し丁寧にあつかえよ。 ところで、この子猫、三毛猫だろうと書いたが、どうやらそのようで、しかもオス猫だった。 佐々木に昔、三毛猫の雄は大変珍しいと聞いたことがったが、ひょっとするとこいつは文芸部の幸運の招き猫になるかも しれんな。、 ただ、その幸運の招き猫候補に、我が妹が”絶対これがいい”と言って付けた名前は”シャミセン”という、猫にとって はとんでもない悪い名前だった。
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~土曜日~ 佐々木「やぁ、キョン。待たせたかい?」 キョン「少しだけな。人を待ったのなんか久しぶりだな」 佐々木「キョン。そこは嘘でも、待ってない、と言うのが男じゃないのかい?」 キョン「ん、そうだな。佐々木、実は待ってないぞ?」 佐々木「君には呆れるね」 キョン「悪いな、褒めてくれて」 キョン「しかし、久しぶりだな」 佐々木「そうだね。高校進学以来まさに一年ぶりだよ?」 キョン「そんなに経つのか」 佐々木「そうさ。キョンがいつ連絡をくれるかと気長に待ってみたけど……」 キョン「みたけど?」 佐々木「ついには一年間も音沙汰無し」 キョン「悪いな、部活で忙しかったんだ」 佐々木「丸々一年間もかい?」 キョン「だから悪いって。でもお前のこと忘れたことなんて一度もないぞ?」 佐々木「……そう、そうか」 キョン「ん?どうした、俯いて?」 佐々木「そうやって女の子顔を覗くのは、デリカシーがないとは思わないかな?」コツ キョン「おっと、すまん」 佐々木「まったく」 キョン「そういやお前こそ、俺に連絡の一つでもくれればよかったんじゃないのか?」 佐々木「そこは我慢比べだよ、キョン」 キョン「我慢比べ?」 佐々木「少なくとも中学時代はまがりなりにも僕たちは親友だった」 キョン「今は違うのか?」 佐々木「一年も連絡を寄越さないやつなんて、果たして親友と呼べるかな?」 キョン「ごもっともで」 佐々木「それで先に連絡をするのは、なんだか君に負けた気がして嫌だったのさ」 キョン「それで結局、お前から電話を寄越したから、今こうしているわけだ」 佐々木「……何が言いたいんだい?」 キョン「残念だ、佐々木。お前の負けだ」 佐々木「君には一度お説教が必要のようだね?」 キョン「それで一年ぶりに会ったわけだが、なんかあったのか?」 佐々木「キョン。僕たちが会うのに理由なんかいるのかな?」 キョン「そういや、そうだな。お前と一緒にいるのはむしろスタンダードだ」 佐々木「くつくつ。そういうことさ、キョン。会いたくなったんだよ、君に」 キョン「それはなによりだ」 佐々木「……鈍感」ボソ キョン「なんか言ったか?」 佐々木「言ってないよ」 キョン「でもなんか機嫌が悪い」 佐々木「悪くない」 キョン「そうか?俺はもっと笑ってる方が似合うと思うけどな」 佐々木(……この卑怯者) キョン「まあとりあえず、そこの喫茶店でも入るか。積もる話もあるだろう?」 佐々木「そうだね」 ~喫茶店にて~ 佐々木「すると君はそのSOS団なるものに入ってるんだね?」 キョン「ああ。改めて人に説明すると恥ずかしいな」 佐々木「部長の女の子がキョンを無理やり」 キョン「まぁそんなとこだ」 佐々木「何故?」 キョン「なにがだ?」 佐々木「だって君は断ることも出来ただろ?」 キョン「何でだろうな?当時のクラス委員だったやつにも頼まれてたし」 佐々木「君は随分軽いね」 キョン「特に入りたい部活もなかったしな」 佐々木「そういうものかい?」 キョン「表向きはボランティア団体だしな。学校ではともかく、世間体はいいんじゃないか?」 佐々木「ふーん、でその部長の」 キョン「ハルヒか?」 佐々木「……」 キョン「どうした?」 佐々木「……なんでもないよ」 キョン「?」 佐々木「……キョン。君は僕が知らない異性の話を始めたらどうだい?それも楽しそうに」 キョン「……面白くないな」 佐々木「つまりそういうことだよ」 キョン「俺が軽率だった」 佐々木「くつくつ。今に始まったことじゃないけどね」 キョン「返す言葉もない」 佐々木「まぁ、いいさ。それより今日は何処かに連れてってくれないかい?」 キョン「なんだ?お前が誘ったから、てっきり行きたいとこでもあるんだと」 佐々木「僕は本来キョンに会うのが目的だったんだよ」 キョン「なんだそりゃ」 佐々木「つまり、今は用事が終って暇なんだ。もう一度言うよ?」 キョン「ん?」 佐々木「僕を何処かに連れてってくれないか?」 キョン「そうだな、つまらなくても文句言うなよ?」 佐々木「大丈夫さ」 キョン「よし、少し待ってろ」 佐々木「あぁ」 prrr ピッ 古泉「どうかしましたか?」 キョン「普通はもしもしだろうが」 古泉「気をつけます。ところで何の用です?」 キョン「数少ない友人を、そう邪険に扱うなよな」 古泉「友人?はて?」 キョン「切る」 古泉「んふ。冗談ですよ」 キョン「ったく。この間お前が聞かせてくれたCDあったろ?」 古泉「どれのことですか?」 キョン「とら、なんとか」 古泉「ふむ。Tra○isでしょうか?」 キョン「それだそれ。大阪公演って今日だったか?」 古泉「いえ、来週ですよ。行かれるんですか?」 キョン「分からん。とりあえずプランが折れた」 古泉「は?」 キョン「悪かったな。また学校でな」 古泉「?分かりました」 ピッ 佐々木「誰だい?」 キョン「同じ部活の男友達だ。この間聞いたCDが良くってな、確か今日が来日公演だと思ったんだが来週だった」 佐々木「なんていうバンド?」 キョン「Tr○vis」 佐々木「聞かない名だね」 キョン「俺もそいつに聞かされるまで知らなかった」 佐々木「へぇ」 キョン「知らないといったらすごい呆れられたよ。普通に生きてて知るかって」 佐々木「確かに、そうだね」 キョン「さて、とっさで立てた計画も頓挫したわけだが」 佐々木「お手並み拝見だね?」 キョン「そうだな……」 佐々木(私は君といるだけでいいんだけどなぁ) キョン「さすがにポンポン出てこないな」 佐々木「大丈夫さ。今は十五時を回ったところだ。公園でも行ってのんびりしないかい?」 キョン「佐々木がいいなら一向に構わんぞ」 佐々木「なら行こうか」 キョン「ああ」 ~移動中~ 佐々木「……」 キョン「さすがに休日だけあって人が多いな」 佐々木(今しかない)ギュ キョン「さ、佐々木!?」 佐々木「キョンは歩くのが早いね。つ、つかまってていいかい?」 キョン「あ、あぁ、いいぞ」ギュ 佐々木「ありがとう」ギュ キョン(佐々木の手ってこんなに小さかったけか) 佐々木(キョンの手ってこんなに大きかったんだ) キョン「……」 佐々木「……」 ~公園にて~ 佐々木「ちょうどいい木陰がある。あそこにしないかい?」グイ キョン「そうだな、上手いことにベンチもあるし」 ストン 佐々木「ふぅー、風が気持いいね」 キョン「歩き回るにはキツイがこうしてるぶんには助かるよ」 佐々木「そういえば君は何もないのかい?」 キョン「なにがだ?」 佐々木「せっかくこうやって着飾ってきたのに、こうも反応がないと」 キョン「……そうゆうことか」 佐々木「何度も言うけど一年ぶりなんだ。少しは、その、そうゆうこと言って欲しいもんだよ」 キョン「すまんな。俺の無神経ぶりは知ってるだろ?」 佐々木「よく知ってるさ。でもやっぱり、そこはキョンに言って欲しかったんだ」 キョン「しばらく会わないうちに、ぐっと魅力的になったな。周りの男共がほっとかないんじゃないのか?」 佐々木「くつくつ。そうでもないさ。ほら、僕は変な女だからね」 キョン「国木田の言ってたのは冗談だぞ」 佐々木「わかってるよ。でも心当たりがありすぎてね」 キョン「まったく」 佐々木「まぁいいさ。しかし、キョンに素直に褒めてもらうと、なんだかくすぐったいよ」 キョン「悪かったな、語呂が貧相で」 佐々木「くつくつ」 キョン「佐々木は最近どうなんだ?」 佐々木「どうとは?」 キョン「それこそ色々だ」 佐々木「そうだね。勉強に関しては君に心配されるのは心外だね」 キョン「あぁ、そうかい」 佐々木「くつくつ。冗談だよ」 キョン「事実がたっぷり含まれてる分、安心して笑えないね」 佐々木「とりあえず学校生活は充実しているよ」 キョン「そりゃなによりだ」 佐々木「ただ」 キョン「ん?」 佐々木「そこにキョンがいないのは少し寂しいかな」ニコ キョン(そこで笑顔は反則だろ。ヤバイ手が汗ばむ) キョン「ち、ちょっと飲み物買ってくる。何がいい?」 佐々木「そうだね。冷たいココアが欲しいな」 キョン「わかった。あ、佐々木?」 佐々木「なんだい?」 キョン「手を放してもらっていいか?」 佐々木「え?あ、う、すまない」パッ キョン「いや、いいさ。俺としては惜しいくらいだ。じゃあ行ってくる」 佐々木(なんで平気でああいう事言えるの?顔が熱くなってきたよ)カァァ キョン「ほら、ココアだ」 佐々木「ありがとう、キョン」 キョン「……」ゴクゴク 佐々木「……」ゴクゴク キョン「こうやって座ってるだけってのもいいもんだな」 佐々木「そうなのかい?」 キョン「そうさ。土曜になれば、やれ不思議探索だ、やれ野球大会だ、で毎週大忙しだ」 佐々木「……いやなら辞めてもいいんじゃ」 キョン「う~ん。それが案外苦痛でもないんだよ。なんというか、楽しいとか、このままこのメンバーで遊んでたいとか」 佐々木「……」 キョン「って最近思えるんだよな。まあ具合がいいってことだ」 佐々木「……そう」 キョン「そうなんだな。……ただな」 佐々木「?」 キョン「さっきのお前じゃないが、この輪の中に佐々木もいたら、もっと楽しかっただろうなぁ、とは思う」 佐々木「……うん、ありがとう」 キョン「なに、本心さ」 キョン「今は何時だ?」 佐々木「五時半だね。……もう帰るかい?」 キョン「ん?別に中学生でもないんだし大丈夫だろ。それとも門限とかあるのか?」 佐々木「いや、母さんには、キョンに会ってくる、って言ってあるから平気だよ」 キョン「ならいいか。……ちょっとCDを見に行かないか?」 佐々木「構わないけど、何か欲しい物でもあるのかい?」 キョン「ああ。これまた紹介してもらったバンドなんだけどな」 佐々木「一応聞こうか。なんていうやつだい?」 キョン「The Tell○rs」 佐々木「また知らないな」 キョン「これは逆に、一般人が知っていたら驚くようなアーティストらしいぞ?」 佐々木「へぇ。それじゃ探しに行こうよ」 キョン「そうだな」 ~移動中~ 佐々木「……」ジー キョン「それでな、その古泉ってやつがな」 佐々木「……」スッ キョン「話をする度に顔を寄せてくるんだ」サッ 佐々木「……」スッ キョン「弱冠、アッチのけがあるんじゃないかと思っちまうよ」サッ 佐々木「……」スッ キョン「まぁ、悪いやつじゃないんだがな」サッ 佐々木「……」イラ キョン「さっきから何やってるんだ」 佐々木「君はわざとやってるのかな?」 キョン「何の話だ?」 佐々木「隙アリ!」ガシ キョン「……なんだ、手を繋ぎたかったのか?」 佐々木「そ、そういうわけじゃないだが、あまりに無防備だったんで、つい」 キョン「ふ~ん。そういうことにしておくよ」ギュ 佐々木「くつくつ。よろしく頼むよ」ギュ キョン(これじゃ、恋人みたいだな。……誰にも会いませんように) 佐々木「~♪」 ~駅前にて~ キョン「悪いな、探すの手伝わせて」 佐々木「構わないよ。見つかって良かったじゃないか。今度聴かせてもらっていいかい?」 キョン「もちろんだ」 佐々木(やった、また会う約束が出来た♪) キョン「もうこんな時間か。ついでだしどっかで飯でも食ってくか?」 佐々木「そうだね。家の人に夕飯はいらないと連絡しておくよ。しかしついでとは失礼じゃないかい?」 キョン「ん?そうか?次は気をつけるよ」 佐々木「全く君ってやつは」 佐々木「くつくつ。ところで美味しい店をちゃんと知ってるんだろうね、キョン?僕の舌は以外にグルメだよ?」 キョン「そういわれてもなあ。自称グルメの佐々木と違って、俺の舌はあくまで一般のものなんだが」 佐々木「まあいいよ。きっとキョンと一緒ならどこでも美味しく感じる」 キョン「またそうやってプレッシャーを」 佐々木「くつくつ」 ~食事後~ 佐々木「それでだ、キョン」 キョン「ん?美味しかっただろ?」 佐々木「確かに美味しかったよ」 キョン「ならいいだろ」 佐々木「いや、雰囲気の問題だよ」 キョン「?」 佐々木「なんでラーメン屋?」 キョン「佐々木が美味しいもの食べたいって言うから」 佐々木「僕のせいなのかな?」 キョン「待て待て、何をそんなに不機嫌なんだ?」 佐々木「……しいて言えば、過大評価をしてしまった自分にかな?」 キョン「?」 佐々木「……はぁ、もういいよ。僕の負けだよ」 キョン「?なんだか知らんが俺が勝ったのか?」 佐々木「……やっぱり一回叩かせてくれないかな?」バシ キョン「背中が痛い」ヒリヒリ 佐々木「自業自得だね」 キョン「納得いかん」 佐々木「君はもう少し自分以外の人にも、感情があるのを学んだ方がいいよ」 キョン「む、気をつけてみるさ」 佐々木「まったく」 キョン「もう八時か」 佐々木「そうだね。さすがに帰らないとまずいよ」 キョン「送ってくぞ」 佐々木「悪いね」 キョン「……」テクテク 佐々木「……」トテトテ 佐々木「……次はいつ会えるかな?」 キョン「さぁな。でも連絡くれればいつでも会いに行くぞ?」 佐々木「キョン……」 キョン「この辺りも懐かしいな。佐々木の家が近いってことだな」 佐々木「……」 キョン「どうした?」 佐々木「さっき、いつでも会いに来てくれるって言ったよね?」 キョン「言ったな」 佐々木「何故だい?」 キョン「親友の頼みは断れないだろ?」 佐々木「……親友か」 キョン「不満か?」 佐々木「……不満だね。僕はね、もう君との友情は終わりにしたいんだ」 キョン「佐々木?」 佐々木「今回連絡を取って、今こうやって会ってるのもそのためさ」 キョン「どういうことだ?なにか嫌われるようなことしたか?」 佐々木「……一年間会わないうち色々考えたよ。今日、僕の答えを出したいんだ」 キョン「……」 佐々木「僕がキョンを嫌うと思う?逆だよ、好きなんだ」 キョン「佐々木」 佐々木「もちろん親友としてではなく。異性として。キョンという男の子を」 キョン「……」 佐々木「この一年間ずっと悩んだよ。でも言わないままは、これから先、辛すぎる」 キョン「そうか」 佐々木「僕でも一年悩んだんだ。キョンには一週間の猶予をあげるよ」 キョン「一週間?」 佐々木「うん。だから来週の土曜日にまた……会ってくれないかな?そして……答えはその時に」 キョン「……あぁ、分かったよ」 佐々木「それじゃあ、もう家まで目と鼻の先だ。もうここまででいいよ」 キョン「あぁ」 佐々木「またねキョン」 キョン「またな」 タタッ キョン「……」 ~月曜~ ガラ キョン「おぉ珍しく早いな。どうした?」 ハルヒ「べ、べ、別にどうしよもないわよ」 キョン「?そうか」 キョン「土曜は長門と一緒だったんだろ?どこ行ったんだ?」 ハルヒ「……」 キョン「なに、お前と長門の組み合わせでなにをやってるのか、気になってな」 ハルヒ「……」 キョン「お~い。聞いてるのか?」 ハルヒ「キョ、キョン!?」 キョン「ん、なんだ?」 ハルヒ「一昨日、有希と一緒に歩いてたら……駅前で……」 キョン「駅前で?」 ハルヒ「あ、あんたが……その、女の子と歩いてるの見たんだけど……」 キョン「ん?あーその、見られたか」 ハルヒ「そりゃ、あんな地元ならね」 キョン「だよな」 ハルヒ「……彼女?」 キョン「いや、ただの腐れ縁の友達だったんだ」 ハルヒ「だった?」 キョン「あの時点まではな。あの後帰り道でな、まあ、恥ずかしい話だが告られたんだ」 ハルヒ「!!!」 ハルヒ「そ、それで?」 キョン「で、一週間後にまた会おうって。その時に答えがほしいって、言われた」 ハルヒ「……それで、どうするの?」 キョン「さぁな、せっかく一週間も猶予もらったんだ。ゆっくり考えるさ」 ハルヒ「あんた、そのコのこと……好きなの?」 キョン「あぁ、大事な友達だからな。嫌いになれるはずがない」 ハルヒ「……そう」 キョン「?」 ~帰り道にて~ 国木田「どうしたの?」 キョン「ん?いや今日、ハルヒのやつが変だったんだ。それでな……」 谷口「おいおい、涼宮が普通の時なんかあんのか?」 キョン「そいつは言いすぎだぞ」 キョン(まぁ考えすぎかな。明日になれば直ってるだろ) ~次の日の昼休み~ ハルヒ「キョン!!」 キョン「おう。どうした?」 ハルヒ「後で話しがあるのよ。だから放課後、部室行く前に屋上に来なさい!」 キョン「ここじゃ言えんのか」 ハルヒ「放課後ったら放課後なのよ!いい?必ず……必ず来るのよ」 キョン「あぁ?わかった」 ハルヒ「じゃああたし行くとこあるから」ダッ キョン「行っちまった」 キョン(なんだか思いつめてたみたいだけど……気のせいか?) ~放課後の屋上にて~ キョン「待たせたな。なんか谷口のやつに絡まれてな」 ハルヒ「そ、そう」 キョン「それで、話ってなんだ?」 ハルヒ「……」 キョン「他の連中に聞かれたくない話なんだろ?」 ハルヒ「……」 キョン「まあ、これで案外口が堅い方なんだ」 ハルヒ「……」 キョン「だから信用してくれていいぞ?」 ハルヒ「……」 キョン「……そんなに言いづらいことか」 ハルヒ「……」 キョン「大丈夫か?」 ハルヒ「……」 キョン「おい、顔真っ赤じゃないか?熱でもあるのか」 ハルヒ「……」 キョン「別に無理しなくていいぞ?」 ハルヒ「無理なんかじゃない!!!」 キョン「うぉ!いきなり大声出すなよ」 ハルヒ「キョン!聞いて!」 キョン「さっきから聞いてるって」 ハルヒ「最初はそんなことなかった」 キョン「?」 ハルヒ「あんたの提案でSOS団を作って、今のみんなが集まった」 キョン「……」 ハルヒ「あたしがわがまま言ったときも、あんたは口では文句言いながらも着いてきてくれた」 キョン「わがままな自覚はあったんだな」 ハルヒ「お願いだから、今は変な横槍いれないで」 キョン「すまん」 ハルヒ「みんなと、あんたと出会って一年。色んなことがあった」 キョン「……」 ハルヒ「昨日あんたが昔の友達に告白されたって言ったわよね?」 キョン「あぁ」 ハルヒ「それを聞いて、あたしは、生きた心地がしなかった」 キョン(そういうことかよ) ハルヒ「あたしは、あたしは……」 キョン「……」 ハルヒ「……」 キョン「……」 ハルヒ「あたしは、あんたのことが好きなの。好きになっちゃったのよ」 キョン「……そうか」 ハルヒ「……」 キョン「……」 ハルヒ「……もう覚悟は出来てるわ。なんか言ってよ」 キョン「……スマン」 ハルヒ「……そっか」 キョン「……」 ハルヒ「この間のコ?」 キョン「あぁ、俺はあいつが……」 ハルヒ「好き?」 キョン「……」コク ハルヒ「……」 キョン「……」 ハルヒ「……もしよ?」 キョン「あ、あぁ」 ハルヒ「もし、そのコの前にあたしがあんたに告白したら、どうした?」 キョン「……」 ハルヒ「……」 キョン「……それでも断ってた」 ハルヒ「そのコのことが好きだから?」 キョン「そうだ」 ハルヒ「……わかったわ、ありがとね」 キョン「ハルヒ……その」 ハルヒ「今は!ごめん、今は一人にしてくれない?」 キョン「……わかった」 ハルヒ「ごめんね」 キョン「先に……部室戻ってるぞ」 ガチャ ハルヒ「……戻れるわけ、ないじゃない」 ~部室にて~ キョン「遅くなったな」 古泉「今日は随分遅かったですね」 キョン「あぁ。野暮用があってな」 長門「……」 古泉「そうでしたか。ご苦労様です」 キョン「男からの労いの言葉はないな」 古泉「それはすいません」 みくる「あのぉ~」 キョン「なんですか?」 みくる「涼宮さんは一緒じゃないんですかぁ?」 長門「……」 古泉「……」 キョン「……あいつは。……長門」 長門「何?」 キョン「ちょっと廊下にいいか?」 長門「……」コク ~廊下にて~ ガチャ キョン「あのよ、あいつ今屋上にいるんだ」 長門「……」 キョン「あいつのそばに行ってやってくれないか?」 長門「何故」 キョン「ん?」 長門「何故、彼女ではダメだったの?」 キョン「なんだ、知ってたのか」 長門「何故?」 キョン「先に好きになっちまったやつがいるんだ。ほんとに、ただそれだけだ」 長門「そう。行ってくる」タタッ キョン(悪いな) ~部室にて~ ガチャ 古泉「随分お疲れのようですね」 キョン「ちょっと精神的にな」 古泉「そうですか」 キョン(……あいつの方が辛いよな) みくる「大丈夫ですかぁ?」 キョン「俺は平気ですよ。俺は」 みくる「でも辛そうですよ?」 キョン「大丈夫ですよ。朝比奈さんのお茶を頂ければすぐ良くなります」 みくる「キョン君がそういうならぁ」トテトテ 古泉「……」 キョン「……」 みくる「どうぞ、キョン君」 キョン「ありがとうございます」ズズ みくる「……なんだかよく分かりませんけど、元気出してくださいね?」 キョン「……えぇ」 キョン(俺が言われるべき台詞じゃないよな) 古泉「……朝比奈さん、たまには一緒にオセロでもいかがです?」 みくる「いいですよぉ」 古泉「では早速」カタ みくる「手加減してくださいねぇ」 古泉「ふふ。盤面には男も女も関係ありませんよ」 ~一時間後~ 古泉「……」 みくる「やった♪また勝ちましたぁ♪」 ガチャ 古泉「……おかえりなさい、長門さん」 長門「……」 キョン「長門……」 長門「大丈夫。でも今日はもう帰る」 キョン「そうか。わかった。よろしくな」 長門「……」コク ガチャ みくる「え?あのぉ~、どういうことですかぁ?」 古泉「ふむ。朝比奈さんがご存知ないということは、今回のことは未来で想定の範囲内ということですか」 みくる「ふぇ?」 キョン「おい、古泉。お前もしかして」 古泉「いったいどうしました?」ニコ キョン「……なんでもねぇよ」 みくる「わ、わたしにも教えてくださいよぉ~」 キョン「今回はいくら朝比奈さんでもちょっと」 みくる「仲間はずれですかぁ?」 キョン「禁則事項です」 みくる「……そう言われると言い返せませんよぉ」 キョン「はは、スイマセンね。来たばっかで悪いですけど、俺帰ります」ガタ 古泉「一つだけいいですか?」 キョン「なんだ?」 古泉「長門さんに感謝してくださいね?」 キョン「分かってる。じゃあな」 ガチャ ~次の日の朝~ キョン(昨日の今日だし顔合わすのは辛いな) ガラガラ ハルヒ「……おはよ」 キョン「お、おう」 ハルヒ「……」 キョン「……」 キョン(ダメだ、耐えられん) ハルヒ(……今言わないと) ハルヒ・キョン『き、昨日のことだけど』 キョン「あ」 ハルヒ「な」 キョン「あ、あぁっと。先いいぞ」 ハルヒ「う、うん」 ハルヒ「昨日のことだけどね、やっぱり忘れてなんて言えない。言いたくない。でもね、気にしないでほしいのよ」 キョン「……」 ハルヒ「あたしたちがギクシャクしたら、SOS団にも迷惑かかる」 キョン「そうだな」 ハルヒ「だから今まで通りでいてほしいの。あたしが馬鹿やったら、あんたがそれを止めて、有希や古泉君に助けてもらって、みくるちゃんは……よくわかんない」 キョン「それは朝比奈さんに失礼だろ?」 ハルヒ「冗談よ」 キョン「ったく、とはいえそれには賛成だ」 ハルヒ「……」 キョン「虫のいい話だが、俺も同じ事を言おうと思っていた」 ハルヒ「うん」 キョン「そういうわけだ。これからもよろしくな。団長さん?」 ハルヒ「よろしく。今まで以上に引っ張りまわしてやるわ」ニコ キョン「それは勘弁してくれ」 ~放課後・部室にて~ ハルヒ「昨日は来れなくって悪かったわね!」 古泉「いえいえ。団長にも休みは必要ですよ」 みくる「はい、涼宮さん。お茶です」 ハルヒ「ありがと。そうだ、みくるちゃん!」 みくる「ふぇ?なんですかぁ?」 ハルヒ「昨日、ネットで面白いもの見つけたのよ!」 みくる「面白いものですかぁ?」 ハルヒ「ふふ、そのうち届くから楽しみにしといてね」ニヤ みくる「なんだか、笑い顔が怖いですよぉ~」アセ ハルヒ「それと今週末も団活は中止」 古泉「おや?」 ハルヒ「キョンが用事あるんだって。でしょ?」 キョン「あぁ、悪いな」 ハルヒ「悪いと思ってるなら今すぐにみんなにジュース買って来なさい。あたしは百パーセントのオレンジね」 キョン「な!」 古泉「ぼくはコーヒーを。微糖がいいですね」 キョン「おい」 長門「カルピス」 キョン「長門まで」 みくる「わ、わたしは何でもいいですよぉ」 キョン「はぁ、分かったよ」 ガチャ ~廊下にて~ キョン「全く人使いが荒いな」 キョン(……今日は火曜日か、佐々木は俺の返事を土曜まで、どんな気持ちで待ってんのかな) キョン(俺の腹は決まってるのにな) キョン「……」 キョン「よし!」 prrrrrprrr…… ピッ 佐々木「も、もしもし」 キョン「よう」 佐々木「……やあ」 キョン「お前に電話かけるのがこんなに緊張したのは初めてだ」 佐々木「僕も電話に出るのをためらったのは初めてだよ」 キョン「そうか」 佐々木「うん」 キョン「昨日な」 佐々木「え?」 キョン「昨日な俺、学校で告白された」 佐々木「……」 キョン「でも、無理だって言ったよ」 佐々木「……」 キョン「俺は他に好きなやつがいる、ってな」 佐々木「……」ポロ キョン「そしたら、もし自分が先に告白したらどうだったか聞かれた」 佐々木「……」ポロ キョン「そう言われてやっと気付いたよ。……ずっとお前がいたんだな、って」 佐々木「……」ポロポロ キョン「俺の横に、俺の自転車の後ろに、俺の今までの思い出に、いつもな」 佐々木「……」グス キョン「電話なんかですまない。どうしても今すぐ言いたかったんだ」 佐々木「……」ポロポロ キョン「俺と付き合ってくれないか?」 佐々木「な、何年、何年待ったと、おも、ってるんだい?」グス キョン「恋は精神病なんだろ?お前を病気にするのは気が引けてな」 佐々木「……ほんとに馬鹿だよ」 キョン「どうだ?なかなか頭の回転も早くなっただろ?」 佐々木「……キョン?」 キョン「なんだ?」 佐々木「会えなかった一年分、甘えさせてくれるかい?」 キョン「喜んで」 佐々木「……待っててよかった」 キョン「光栄だ」 佐々木「大好きだよ。キョン」 キョン「俺もだ」 ~Fin~
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佐々木さんと銭湯にいきました の巻 佐々木「橘さん、九曜さん、ところで私の胸を見てくれ……こいつをどう思う?」 九曜「――すごく――大きいです――」 橘「えと……凄く……大きいです」 こうやって、毎回言わされるのです。 佐々木さんは、キョンさんのいないところでは、意外と我儘なのです。 佐々木「うーん…・・・九曜さんに言われると嬉しいけど、橘さんは違うな……」 橘「え……?」 佐々木「何故だろう?」 九曜「――――我々の中では――最も大きい――」 佐々木「そうか……自分より大きい人に言われるから、嬉しくないんだね」 これも毎回言われます。でも、仕方ないじゃないですか。 自分の胸は自分で操作できません。 ちなみに、あたしの胸はそんなに大きくないと思います。 つまり、佐々木さんの胸もそんなに『すごく大きい』という程ではないです。 むしろちっちゃ……これ以上は言えません…… 橘「んん……!もうっ!わかりましたよ!いつも通りにすればいいんですね?」 佐々木「そうだね、よろしく頼むよ」 こうして、あたしは湯船の中で佐々木さんの胸をマッサージすることになります。 まるで女王様です。 九曜さんはこの間湯船に浮いてるだけです。まるで水死体です。息継ぎしてください。 佐々木「あっ!」 橘「ごっ、ごめんない」 敏感な部分に触ると、後で怒られます。 あまりに怒られると、あとでフルーツ牛乳がもらえません。 難しいけど頑張るのです。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 橘「……というわけでキョンさん、あなたの協力が必要なの」 キョン「……いや、今の話と全く繋がらないのだが」 橘「この前本で読んだのです。マッサージする方法は、女性ホルモンの分泌が条件なのです。 女性ホルモン分泌は、好きな人に揉んでもらわないと促進されないのです」 キョン「なおさら協力できるか!!」
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『藤原くんから見れば、そう、私にはキョンを北高へ連れていくくらいの役割しかなかったのよ』 佐々木さんの言葉はあたしの心をあの閉鎖空間へと連れ戻す。 あの日見た、混ざり合い混沌とした空間へと。 『彼の望みは力によってお姉さんを救うこと。だから本来は力の所持者なんて誰でもいいの。 けれど涼宮さんにそれをさせるのは不可能に近い。だから、私に移すという第二の可能性に賭けたでしょうね』 『でも私は与えられた役割を演じなかった。 力の奪い合いを目的とした『涼宮さんに対する解り易い敵役』という役割をね。 きっと藤原くんは未来人の知識によってそれを知っていたんじゃないかしら。だから私を憎んだのだと思う。 私が本気で役割を演じていたなら、もしかしたら藤原くんは『お姉さんを救う』という大望を果たせたのかもしれないのだから……』 あたしは言わなくちゃいけない。 あたしが知っていて、佐々木さんも彼も知らない事がある。特に「彼」にだけは知りようも無いことがあるのですから。 それに佐々木さんが知らない、或いは知ってて知らないフリをし続けてる、 けれど、とても大切な事があるのですから……。 五月、桜の葉の緑がいよいよ濃くなる季節。 節くれだった幹、青々と生命に満ちた緑の葉を見ていると、あの四月の儚げな桜とは別の植物であるかのように錯覚させられる。 それを見つめる佐々木さんの姿が、一層儚げに見えてしまうような、そんな気がした。 だから、あたしは 「葉桜、ですね。佐々木さん」 「そうね橘さん」 見返す笑顔はいつもと同じ 「そうそう桜と言えばですね、桜餅が美味しいお店があるんですよ」 そうしてあたし達は葉桜の桜並木を連れ立って歩いた。本音を葉っぱで包むように。 桜葉で包まれた独特の感触のもち米を頬張り、お茶を頂く。 ほのかな桜の葉の香りとお茶の味わいがさっぱりと餡を口内で溶かしてゆく様は、少し早い初夏の香りを思わせる。 「美味しいですね。さすが話題のお店なのですよ」 「ちなみに、このようにもち米を加工した道明寺粉を使う『道明寺』がいわゆる京風、中部以西の西日本側、及び東北日本海側と北海道に 小麦粉ベースの生地を延して焼いた『長命寺』が江戸風、関東甲信から東北太平洋側に おおざっぱに言えばこんな感じで分布しているらしいわね」 「へえ、二種類あるんですか」 相変わらずの博識さです。 「ねえ、佐々木さん」 「あら橘さん、葉っぱは食べないの?」 いえあたしはどうも……って話をそらさないで下さい。 「ですから」 「あ、店員さん。桜餅もう一ついただけます? それとお茶もお願いします」 「はーい」 ああもうこの人は。 「ねえ、佐々木さん」 「……行かないわよ」 何処へとも誰にとも言う前に断言された。いつものパターンだ。 佐々木さんはどこか寂しげな、センチメンタルな気配を漂わせたまま。それでも彼女の頑固さはちっとも変わらない。 もういっそ「彼」を頼るべきなのでしょうか。 けれど、彼と彼女を接触させることは「神の力の簒奪」に否応なしに繋がります。他組織は鉄壁のガードを敷くでしょう。 現代では「機関」が、宇宙からは情報体が、そして未来からも強力に干渉されています。 あたし達は彼の前に姿を現すことすら容易ではありません。 彼女には願いがある。 だから彼女が彼に接する事は他組織にとって大問題なのです。 彼はただの一般人。ただの一般人という事は、彼を「鍵」に変えたように「誰にでも鍵になりうる可能性がある」という事でしょ? だから、彼と涼宮ハルヒへの干渉はあらゆる組織で問題となっているのです。 だからこそ「組織」は未来人誘拐事件なんてバカな真似をしてしまったのです。 強力な干渉に焦っていたし、それにあたし達は「あたし達が異能者である」と彼に認識をさせなければいけなかった。 そうしなければ、彼を通じて佐々木さんを納得させることも出来ない。 あたし達が超能力者である、と、彼女を納得させられない。 我ながら短期的な見方。けれど焦っていたのです。 そう。「力を持たない、けど神らしきもの」を信奉するだけでは「力を持つ神らしきもの」を擁する者達に対抗できません。 誰だって後者を信頼するに決まっている。物だって人だって金だって全部後者に集まるのです。 あたしたちは良く言えば「対抗馬」、悪く言えば「かませ犬」でしかない。 あたし達の神様こそが、佐々木さんこそが本来の神様なのに。 アイデンティティの崩壊を防ぎたかった。 ……だから失敗した。 あたし達は、あたし達であろうとして失敗した。 佐々木さんを道連れにして。 「気に病む事は無いわ橘さん。それだけ未来人の言葉が大きかったという事でしょう?」 え。もしかして口に出して言ってました? 「さあてね?」 「もう」 佐々木さんの笑みは変わらない。 「キョンに『暴走する可能性の無い、平穏な世界』を望んで欲しかったのでしょう? けれどそれには遅すぎたのよ」 佐々木さんは滔々と語る。さも当然というように。 「その為には、キョンが鍵となり、なおかつ彼が『涼宮さんは暴走しうる』と思っている時期である必要があった」 「ええ。実際あたし達は今もそうなのだと思っていました」 けれど彼はそうは思わなかった。 「涼宮さんは、彼女の身内から見ればとうに安定しているのよ」 それに考えても御覧なさい、と彼女は笑う。 「それに彼女の力の為にSOS団は集まっているのでしょう? なら失われたらどうなると思うかしら?」 「そりゃ古泉さんは肩の重荷が取れてですね」 「SOS団が、よ」 言われて見れば当たり前の結論。 現代人の古泉さんはまだしも、未来人と宇宙人は本来あるべき場所へ帰る事になるのが普通だろう。 あたし達のところに九曜さんが姿を見せなくなったように。 「彼がどんなにSOS団を大事にしているかくらい、「長門さん」の為に必死の形相で現れたキョンを見れば解るでしょう?」 彼は九曜さんの手による病気に倒れた「長門さん」の為に必死になっていた。 けれど仮に力が佐々木さんに移れば、結果どうなっていたのか。 あたしは「あたし達で第二のSOS団でも組めばいい」と気楽に言った。 けれど彼にしてみれば、それは仲間と居場所を失い、信用ならない集団に囲まれるという条件に他なりません。 あの時は適当に言っただけでしたが、よく考えなくても無体な条件だったんですよ。 だからでしょうか。あの事件の後、彼はことさらSOS団でのんびり過ごしている、と古泉さんから聞きました。 それは、もしかしたら「SOS団」というものが期限付きの存在なのだ そう再確認したからなのかもしれない、と。 「ならもっと早い時期なら良かったって事ですか?」 佐々木さんは細い指を振り 「それはノーね。今度は私が問題になるもの」 言って自分自身を指差した。 「キョンと別れて間もない頃なら、私が彼を求めなかった。求めるつもりなら卒業当初から連絡でも取り合っているわ」 「私はこの一年で弱ってしまった。だからキョンを求めた。でしょう?」 「そんなことないです、佐々木さんは」 「なにより必要な状況は」 きっぱりと遮るように言う。 「私がキョンの迷惑を顧みず、かつ涼宮さんと張り合うくらいに強く彼を求めなければ成立しないわ。そんなのはありえないのよ」 そう、あってはならない。言い直しながら佐々木さんはくつくつと喉奥で笑った。 「だから藤原くんは私を憎んでいたのでしょうね」 「なんで藤原の奴なんです」 「せめてさん付けしたら?」 なんか嫌なんです。 「でも彼に協力を願ったのはあなた達。ならそのリスクも共に負うものよ」 「彼の目的は『力』で『お姉さんが生存する世界』を固定すること。前後の歴史の乱れはさておき、それだけを確定させたかった」 「ええと確かそうでしたね」 藤原……さんと、朝比奈さんとやらの言い争い。 あたしが録音しておいたテープレコーダーにも残っているから、佐々木さんだって知っている。 けれど、あたし達はそんな理由だったことすら最後まで知らなかった。 「仕方ないわよ」 佐々木さんはあっけらかんとしたものだ。 「未来人は話せる言葉が制限されているんでしょ? 禁則事項だったかしら」 「でも禁則事項で話せないなら、あたし達が知る余地なんて」 佐々木さんはちっちっちと偽悪的に指を振る。 「だから彼は言ったでしょ? 『既定事項を外れた? 僕よりも先に禁則を外したものがいただと?』ってね」 佐々木さんの空間へ入った先、あのしょぼくれた部室で「世界が融合した」時だ。 確かに藤原さんは驚愕を浮かべていた。 「藤原くんはそれまで『歴史のあるべき姿』を辿っていた。だから乗りたくも無いタクシーに乗ったし それまでにキョンを説得することが無理なのも、私が力が欲しいと言い出さない事だって、なにもかも知っていたのよ」 「けれどあの時の部室でだけは『歴史のあるべき姿』から外れていたはずね。 でなければ歴史は変えられない。既定事項から外れ、禁則事項も外し、制限の無い行動と発言を得られていたのではないかしら」 だから「僕よりも先に」ですか? でも 「ちょっと待ってください。禁則を自分で外せるなら」 「多分だけど意図的には外せないのよ」 まるで見てきたように言う。 「意図的に外せるなら『朝比奈さんが失われる』事を伝えてキョンを仲間に引き込めたはずでしょ?」 「ちょ、ちょっと待ってください」 それはそれで辻褄が合いません。 「なら禁則が外れたときに、真っ先に彼に相談すればよかったじゃないですか」 すると佐々木さんは「あらあら」と言いたげに笑った。 「部室に入った後、一体何が起きたのかはあなたの方が良く知っているのでしょう?」 そうだった。藤原さんにはそんな余裕なんてなかったんだ。 藤原さんに連れられ部室に入った時、待っていたのは「もう一人の彼」と見知らぬ女の子。 出会った瞬間に「もう一人の彼」とその子は消えてしまい、後には混乱する藤原さん、彼、あたしが残された。 しかし考えをまとめる間もなく九曜さんが現れ、古泉さんと未来人の女性が現れ、更に窓の外は見知らぬ奇妙な空間に変貌していた。 後は急流のように物事が進行し、あたしだけではなく、藤原さんさえもが混乱のきわみにあったのですから。 いや、むしろあらかじめ「予定表」を持っていた藤原さんこそ混乱していたはずです。 古泉さん、朝比奈さんという未来人、彼らは力でも言葉でもなく「その場に存在すること」で藤原さんに一撃を食らわしたのでしょう。 結局、佐々木さんの空間で、藤原さんは涼宮さんを人質にしようとしていました。 けれど、それはあくまで混乱した状況下での事でしょ? 彼は何と言っていました? 『僕がバカだった。最初からこうしてやればよかったんだよ』 彼は自嘲していたじゃないですか。あくまで仮定の話にすぎませんが、もしかしたら最後まで彼と話し合おうとしていたのかもしれません。 禁則事項を取っ払って、今度こそ腹を割って。 「事実はわからない。ただ、藤原くんは普段「発言が大きく制限される」。 しかも未来人は過去には直接干渉できず、言葉だけで過去人に折衝して目的を達成しなければならない。よく出来たルールね」 だからこそ組織的な関与が可能になるって事でしょうか。 「くく、彼が混乱してくれたのは傍聴人には好都合だったけどね。 禁則が外れ、想い人、朝比奈さんだったかな? と出会った藤原くんは、彼自身の思いをようやく吐露してくれたのだから」 「笑い方が悪趣味ですよ佐々木さん」 けど本気でたしなめるつもりなんかない。 彼女には権利がある。誰より藤原さんに振り回された彼女には権利がある。 あたし達が巻き込んだせいで、彼女は彼女が誰よりも鈍感だと知っている彼に、たった二週間の再会と選択を強いられたのだから。 一年ものブランク、たった二週間という期間、周りを固める「彼の敵」。いま思えば完全に無理ゲーだ。 そして佐々木さんが彼を思うという事は「神の力の簒奪」として疎まれるという事で……。 「彼の望みは力によってお姉さんを救うこと。だから本来は力の所持者なんて誰でもいいの。 けれど涼宮さんにそれをさせるのは不可能に近い。だから、私に移すという第二の可能性に賭けたでしょうね」 「確かにそのように言っていましたね」 「けれど問題は」 佐々木さんはくつくつと喉奥で笑う。 「私に移すために、私とキョンの同意が必要だという事。 その為には私がキョンを説得するのが一番の早道だったのでしょうけどね。彼を説き伏せるのなら自信があるし」 中学時代からそうだったもの。と楽しそうに笑っている。 そう、これまでで一番楽しそうに笑っている。 「けれど私はそれをしなかった。私は選択が終わるまで出来るだけキョンにノイズを与えないよう努めた。 今回の事件からすれば、むしろ私は居ても居なくても同じなくらいなのよ。ただ、キョンを舞台に引っ張り上げる役くらいかしら。 そう、藤原くんから見れば、私にはキョンを北高へ連れていく役割くらいしかなかったのよ」 彼女は「力の奪い合い」という舞台に上がることを放棄した。 佐々木さんが「私を選んで」と彼に望んだなら、彼にとって「佐々木さんを選ぶ」という選択肢が生まれる。 けれど彼女はあくまで理由と選択肢を呈示するだけに留めて「キミが決めてくれ」と委ね、自分の望みも役割も放棄した。 彼の奪い合い、という舞台において、彼女は影響力を自ら放棄した。 彼女は自分の弱みすら見せようとせず、全てが終わってから「ヒントだよ」とでも言う様に断片だけを明かした。 同情も友情も愛情も、彼に訴える要素はいくらでもあった。 けれど彼女は「彼にとってノイズ」だと断じた。 「私は与えられた役割を演じなかった。 力の争奪戦において与えられた『涼宮さんに対する解り易い敵役』という役割をね。 きっと藤原くんは未来人の知識によってそれを知っていたんじゃないかしら。だから私を憎んだのだと思う。 私が本気で役割を演じていたなら、もしかしたら藤原くんは『お姉さんを救う』という大望を果たせたのかもしれないのだから……」 「けれど私が現在の私であるのは私が望んだこと。それが私の望み。キョンもよく知ってくれている私の小さな望み。 私はキョンに迷惑をかけてまで今の私を放棄したくない。するべきじゃないのよ」 お茶を一口。それから、申し訳なさげに付け足した。 「もし藤原くんから『理由』について聞いていたなら、また事は変わったかもしれないけれどね」 『ふん、禁則だ』 彼がいつも言っていた言葉を思い出す。 藤原さんはいつも苛立っていた。 彼はあたし達に話したかったのだろうか、話せなかったのだろうか。 あたし達は、仲間を気取って、結局仲間になりきれなかった。禁則事項? どんな理由だったって、それが「敗因」なのは間違いない。 意思疎通、当たり前だけどとても大切なんだって、今更ながら解った気がした。 言葉は力なのだ。 だから。 「……でも、そんなのないです」 「何がかしら?」 彼女は片手で頬杖を突いている。 「藤原さんにも言い分がある事くらいは解りました。けど、その為に佐々木さんが不幸になっていいはずないです」 「だから私は不幸なん」 「嘘です」 あたしは言ってやる。 「ノイズを与えたくなかった? なに言ってるんです、佐々木さんはすごく楽しそうだったじゃないですか」 言わなければいけない。 「そうです、佐々木さんご自身も「キョンさんと一緒に居ない佐々木さん」を知らない彼にだって知らないことです。 知りようも無い事です。けれど、とてもとても大事な事です。大事な事じゃないですか。 彼と一緒に居る時のあなたは、誰よりも幸せそうだったじゃないですか」 それはとてもとても大切な事じゃないですか? 「彼もあなた自身も知らない事です。周りだけが知ってることです。だからあなた達は中学時代にああ呼ばれていたんでしょう?」 藤原さんがいつも雰囲気で語っていたように、人は言葉以外でも語れる。だから解る。 けれど、本当の形で伝えるにはやはり言葉しかないんです。 ならあなた達はもっと語り合うべきなんです。 「彼にそれを背負わせろというのかい?」 彼女の言葉遣いが変わったのは、果たして意識してなのだろうか。 「僕はキョンにノイズなんか与えたくない、迷惑なんかかけたくないんだ。そんな関係になんてなりたくないんだよ」 彼女は理性的にあろうとしている。 誰よりも、誰よりも。 けれど今回の件で、彼女の行動は誰よりも雄弁で情動的でした 彼といる時の彼女は、言葉はともかくいつだって行動が情動的でした。 だからあたしは力になりたいんです。彼女がただ自分の望みを彼にぶつけるような人ならどうでも良いんです けれど佐々木さんが自分の望みを捨ててまで他人の幸せを願うような人だから、それでも望みを隠しきれないようなただの女の子だから、 だからこそ、あたしは幸せになって欲しいと思うのです。 「佐々木さん」 だから言いたい。 「佐々木さん。彼が本当に迷惑だと思ってるなら、そもそも迷ったりなんかしないんですよ」 言わなきゃいけない。 「彼が本当にあなたを心配していないなら、涼宮さんの命がかかった時点で、あなたに力を移せばよかったじゃないですか」 彼が本当に心配していないなら、そもそもあたし達の会合にだって顔を出したりなんかしません。 そんな事さえ気付かないふりをし続けるんですか? 「涼宮さんを殺せ。 そう藤原さんが九曜さんへ命じた時に彼はどうしました? 彼は自分があなたへの人質になったり、あなたに苦労さたりするくらいならと意気込んでいたじゃないですか。 そうです。彼が何よりも涼宮さんが大事で、あなたが心配じゃないのなら、そこで力を移せば終わっていたことじゃないですか」 佐々木さんは答えない。 「あなたも彼も、お互いを大事にしすぎなんです。 ああそうですよ、あなたも彼も互いに互いの選択をすごく尊重してるんです。 例えば「選択」が終わるまで、あなたは彼に「告白された」って伝えなかった。伝えたら選択のノイズになってしまうでしょうから。 だから彼も何も言えなかったんですよ。言ったらあなたの選択のノイズになってしまうでしょうから。 けどそれでも、彼は必死に答えを探していたんじゃないんですか!」 「彼は、やれやれ、なんて言わなかった、他人事みたいにはしなかったじゃないですか!」 佐々木さんは微動だにしない。 「んん、もう!」 口元がこわばっているのが解った。食いしばっているのが解った。 あたしは涙を必死に堪えようとしているのだと、他人事のように捉えながら理解していた。 「お互いに迷惑なんかかけられても構わないと思ってるくせに、お互いに迷惑なんかかけたくないと思ってる。 なんであなた達は、あなた達は、あなた達はなんでそんなに頑固なんですか!」 いつもいつも判じ物でパズルみたいに喋ってないで、たまには本音を出してみましょうよ。 彼が本当のあなたの意思を理解しているかなんて解らないじゃないですか。 あなたが本当の彼の意志を理解しているかなんて解らないじゃないですか。 本音で喋ってみましょう? 彼は迷惑だなんて言いませんよ。 あたしが保障します。だって 「あなたが知ってる彼は、まったく気にかけてない人と一年もつるむような人なんですか? 気にもかけないような人と、一年越しの再会でも普通に喋れちゃうような記憶力に優れた人なんですか? ええそうです。彼が本当に気にかけてないなら、そもそも選択肢自体が存在しえない。そうじゃないんですか!? それに」 「あなたが、あなたがあなたであろうとする程、彼から遠ざかっていくなんて、それこそ貧乏くじじゃないですか…………」 椅子に崩れるように座り、言い切って放心するあたしの頭を佐々木さんの手がやさしく撫でていた。 何やってんですか。それこそ彼にして欲しい事でしょうに。 いえ、だからこそあたしにしてくれるんでしょうか。 いつか聞いた事があります。 人の行為は、隠された願望によるものだと。 自分にとって嬉しい行為だから、だから、人にしてあげる。そういう事もあるのだと。 佐々木さんの驚くほど小さな手の感触。こんなに小さな手のひらに、全てを託そうとしていたあたしの愚かしさ。 けれどこんなにも温かい人だから、だから、あたしはこの人に託したかったのかもしれない。 世界に不満を持たない神様、ではなく。 本当に欲しかったのは、ただ世界を「全てを肯定してくれる」神様だったのかもしれない。 あたし達は、いつでも自分自身のちっぽけさに悩むような、そんなアイデンティティに悩まされっぱなしの存在なのですから。 そうやってあたしは願った。だから今度は彼女に願いを返したい。 彼女の幸せを、あたしは誰よりも肯定したい。 それが今の橘京子のスタンスなのだ。 佐々木さんは何も言わない。 ただ、黙ってあたしの頭を撫で続けてくれた。 彼女は何も言わない。肯定も否定も、これ以上、場を混乱させるようなことは言わない。だから彼女は何も言わない。 この頑固者は、何も、言わない。 何も言わず、ただただあたしを撫で続けていた。 「ありがとうございましたぁ」 それからしばらく。カランカラン、と小気味よい音を背にあたし達は店外に歩き出す。 二人とも無言のまま。そう、あれだけ威勢の良い事を言ったとはいえ、あたしに出来る事はとりあえず思いつかない。 佐々木さんが彼に近付こうとすれば他の組織は黙ってはいないだろう。 古泉さんの「機関」は「そのつもりはない」とは言っている。けれど莫大なスポンサーを持つ以上、一枚岩はありえない。 あたし達の組織は仮に再結成しても無駄、だって「自分の願望を持っている神様」を組織は望まない。 下手すれば、また藤原さんのような人が現れるかもしれない。 あたしに出来る事は、とりあえず思いつかない。 だからと言って誘拐事件の二の舞もない。 佐々木さんに「力」がないように、あたし達はどうにも無力だった。 けれど唯一の道があるとしたら。 『少しずつですが、僕にも解ってきましたよ。エイリアンな方々がこれほど大騒ぎしてくれているおかげでね』 古泉さんが読み解いた言葉。 涼宮さんの力も恒久的なものじゃない。 もし恒久的にあるものなら、特に藤原さんは焦ったりしなかったはずだ。 彼は時間渡航できる時代から来た未来人だから「変えたい未来」は、ずっとずっと未来にある。涼宮さんの寿命よりきっと遠くにある。 その上「他人に移せる」ならなおの事だ。今回よりももっと適切なタイミングなんていくらでもあるはずだ。 あんな風に不機嫌でいるような、困難なタイミングで実施する必要なんてないのだ。 きっと「力」の寿命はすごく短いのではないだろうか。 だってそうです。 あの「力」だって、きっと元はと言えば小さな少女の願望が呼び寄せたものでしょうから。 きっと少女が大人になるまでに物語は終わるのでしょう。涼宮さんは永遠の子供なんかじゃない、ピーターパンなんかじゃないのですから。 「葉桜、もう先端が黄色くなってるのもあるわね」 「……そうですね」 青々としている気がした葉桜も、よくみるとほんの少し黄ばんでいた。 あの桜の季節、葉桜、そうして季節が過ぎ去っていく。 彼と彼女の過ごした季節が遠ざかっていく。 「もう少ししたら梅雨ね」 言って、佐々木さんは眩しそうに空を見上げていた。 空は宵闇に染まろうとしているのに。 あたしはせめて橘でいよう。 常緑樹の橘の樹のように、彼女の傍らにいよう。 この頑固者の彼女が、今度こそ素直になれる日が来るにしても、どこか別の誰かを好きになるにしても。 誰よりも貧乏くじな生き方をしている彼女の、ほんの少しでもいい、力になって生きてみたい。 彼女の誰よりも幸せそうな笑みを、もう一度見てみたい。 「桜餅、美味しかったですね。でも葉っぱなのに年中食べられるって不思議です」 「あれは塩漬けを使っているからね……」 佐々木さんの口が回りだす。 彼のようには行かないし、彼のようにある必要はない。 彼がSOS団の代替を求めなかったように、代替なんか彼女は求めていないのだから。代わりなんてどこにもない。 彼女の想いだって代替物で急いで埋める必要なんてない。彼女が卒業した時に望んだように、そっと塩漬けにしておけばいい。 だからあたしは、そう、橘としてここにいます。 だからまた笑ってください。 そうですよ。 彼だってあなたを放っておくはずはありませんしね。 鉄面皮のあなたが最後にさらけだした感情を、あのセンチメンタルな去り際を見て、放っておくような人ではないはずですから。 あたしはそう信じています。 だから、せめてそれまでは一緒にいさせてください。 あの素敵な笑顔がもう一度見れる日まで、もう少しだけ一緒にいさせてください。ね、佐々木さん。 )終わり ■「に、しても」 「なんでキョンとの最後の会話まで知ってるのかしら橘さん?」 「あ、いえ、え、その」 あたしが思い切りしばかれた事は言うまでもない。 だって心配だったんですよう……。 )終わり
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■7月・8月のイベント 福島県内 ◆極上の会津HP 会津若松イクべ/HP(会津若松市) ◆イベント・観光情報/HP (郡山市) ◆行事・イベント情報/HP(二本松市) ◆イベント・まつり・観光情報/HP(伊達市) ◆まちなかイベント情報/HP(福島市) ◆催しイベントカレンダー情報/HP(いわき市) ◆イベント・まつり情報/HP(須賀川市) ◆イベント情報(本宮市)7月~8月 ◆イベント情報(郡山市)7月~8月 ◆イベント情報(伊達市)7月~8月 伊達市内 ◆イベント・まつり・観光情報/HP(伊達市) ■ローカル情報 ■公共機関(市役所、商工会議所、観光協会) ■生活情報(警察署、図書館など) ■観光スポット(伊達市内の主な観光スポット) ■特産品(麺類、地酒など) ■伊達市の著名人(タレント、アイドル、歌手、俳優、作家、漫画家、スポーツ選手など) ■伊達市の記事を含むブログ -
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旭有機材 本店:宮崎県延岡市中の瀬町二丁目5955番地 【商号履歴】 旭有機材株式会社(2016年4月1日~) 旭有機材工業株式会社(1950年11月~2016年4月1日) 旭ベニヤ工業株式会社(1945年11月~1950年11月) 日窒航材工業株式会社(1945年3月12日~1945年11月) 【株式上場履歴】 <東証1部>1974年2月1日~ <東証2部>1961年10月2日~1974年1月31日(1部指定) <店頭>1960年8月 日~1961年10月1日(東証2部上場) 【沿革】 昭和20年3月 資本金200万円をもって日窒化学工業株式会社の子会社として航空機用強化木の製造を目的とする日窒航材工業株式会社を設立 昭和20年11月 社名を旭ベニヤ工業株式会社と改め、フェノール樹脂成形材料、合成樹脂成型品、並びに合板の製造販売へ事業転換 昭和25年11月 社名を旭有機材工業株式会社と改称 昭和27年4月 延岡工場にてアサヒAVバルブの製造・販売を開始 昭和29年6月 延岡工場にてフェノールレジンの製造・販売を開始 昭和35年8月 株式を東京証券業協会に店頭公開 昭和36年10月 株式を東京証券取引所市場第2部に上場 昭和38年7月 レジンコーテッドサンド製造のため、下関工場(山口県下関市)を建設 昭和39年5月 合成樹脂成型品、レジンコーテッドサンド製造のため利根工場(茨城県古河市)を建設 昭和39年10月 レジンコーテッドサンド製造のため、常磐工場(福島県いわき市)を建設 昭和43年4月 フェノールレジン、レジンコーテッドサンド製造のため、愛知工場(愛知県扶桑町)を建設 昭和49年2月 株式を東京証券取引所市場第1部に指定替 昭和49年3月 塩化ビニルパイプの製造のため、北方工場(宮崎県北方町)を建設し、北方プラスチック加工㈲に製造を委託(現・連結子会社) 平成3年9月 総合研究所(宮崎県延岡市)を建設 平成3年10月 レジンコーテッドサンド製造のため、広島工場(広島県庄原市)を建設 平成4年1月 下関工場(山口県下関市)を閉鎖 平成8年10月 レジンコーテッドサンド製造のため、栃木工場(栃木県大田原市)を建設、これに伴い、利根工場(茨城県古河市)及び常磐工場(福島県いわき市)を閉鎖 平成10年11月 塩化ビニルパイプ製造設備を、栃木工場(栃木県大田原市)に建設 平成11年11月 アサヒアメリカ,INC.の全株式を取得(現・連結子会社) 平成12年2月 配管材料エンジニアリング部門強化のため、天下工場(宮崎県延岡市)を建設 平成13年2月 旭有機販売西日本㈱を設立(現・連結子会社) 平成13年6月 延岡本社と東京本社の2本社制とし、かつ管材システム事業部、樹脂事業部の2事業部制を採用 平成14年7月 エーオーシーテクノ㈱を設立(現・連結子会社) 平成14年10月 エーオーシーアセンブル㈱を設立(現・連結子会社) 平成15年7月 中部旭有機販売㈱(現・連結子会社)の株式追加取得 平成16年3月 樹脂事業部門の研究・開発のため総合研究所(愛知県扶桑町)を建設 平成17年12月 旭有機材商貿(上海)有限公司を設立 平成18年12月 旭有機材樹脂(南通)有限公司を設立
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その瞬間、世界が凍り付いたような気がした。 場所は北校文芸部室、SOS団の5人に藤原君除いた私の団の3人、それに鶴屋さんという先輩を集めた中で突然の涼宮さんからキョンへの告白。 頭が真っ白になり何も考えられなくなって数瞬、キョンと目が合う。何をやってるんだい、この状況で涼宮さんから目を逸らすなんて。 こんな時でも冷静になれる自分の理性が恨めしい。仕方ないね、支えてあげようじゃないか。私は一度口をぐっと噛み締めた。 「キョン、どうにも誤魔化しはきかないようだ。キミは今まで涼宮さんの想いに対してはっきりとした返答をしてこなかった。だが今、応えるべき時が来たのだ」 言った後にもう一度改めて口を噛み締め、顔を伏せる。本音がつい漏れ出でてしわまないように。 表情を悟られないように。 「そうか…そうだな。確かに潮時かもしれん」 キョンも覚悟を決めたようだ。例え私にとって、死刑宣告に等しい言葉であっても受け止めてみせるよ。だって『僕』はキミの親友なのだから。 「俺は…「お待ちを!!」 皆の視線がキョンの言葉を遮った発言の主一一古泉君だったかな一一に集まる。どうやら今のは当人にとっても意外だったらしく、彼の表情がその事を明朗に物語っている。 「何なの古泉君。つまらない事だったらいくら副団長といえども却下よ!」 涼宮さんの声に不安と苛立ちを感じる。告白の返答を中断されたんだから当然だ。 「いえ、そ、それはですね…そうですね、僕は涼宮さんが機嫌が悪い時等にバイトが入ったと抜け出す事があったはずです。 それは端からだと体よく逃げているように見えませんでしたか?」 「それは思わなかったでもないけど、今言わきゃいけない程の重要な事なの?」 「言わないと一生後悔すると思ったからこそ、ですよ。涼宮さん、僕のバイトに今からご同行願えませんか?現場を見せて差し上げたいので」 「古泉っ!!」 キョンが驚きの声をあげる。無理も無い、恐らく彼の言う現場とは閉鎖空間、それを涼宮さんに知られる事は絶対の禁忌のはずだから。 「お前…本気なのか!?」 「僕も覚悟を決めたんですよ。涼宮さん・佐々木さん・そしてあなたの覚悟を見てね。ああ、まだバイトの連絡は来ていませんが来るのは時間の問題です、 そして今回は涼宮さんを誘える最初で最後のチャンスであることはあなたにもお分かりでしょう」 「古泉…」 「涼宮さん、彼にも考える時間をお与えになっては如何かと。急いては事をし損じるとも言いますし、どうかこの場は僕に免じてまた明日ということで」 「……副団長にそこまで言われちゃ仕方ないわ、一日だけ待ってあげる。 あたしの告白への返事を延期させる位なんだから、古泉君のバイトってのは当然それ相応の見応えがあるんでしょうね」 「それはもう。ご想像を遥かに越えるスペクタクルをお約束しますよ」 ~~♪♪♪♪♪♪~~ 古泉君の携帯が鳴る。件の連絡なのだろう、私への死刑宣告はどうやら一日延ばされたらしい。 涼宮さんがまた明日集まること、と告げてその日は解散となった。まず古泉君と涼宮さんが部室を後にし、長門さん、朝比奈さん達が続く。 私も橘さんに支えられるように出て行こうとした時、キョンが一人残って手紙?を書いているのが目に入った。文面も気になるところだけど… 「キョン…」 「佐々木か、どうした?」 涼宮さんの告白を断ってほしい、私を選んでほしい。そう言いたかった。なのに。 「涼宮さんが恐らく初めて自分から男性に告白したんだ。古泉君の行動の結果がどう転ぶか分からないが、明日はきちんと答えを出すんだよ」 口をついたのはこんな言葉だった。感情の暴走とは聞くけど、この場合は理性の暴走とでもいうのかな。 尤も、意志表示すらしていない私に言う権利なんて無いのかもしれないけど。 「おう、任せろ。絶対に間違ったりしない。後悔もな」 キョンは穏やかな、でも決意に満ちた表情で返したが、私はそれに適当に返事をしただけで部屋を後にした。 そういえば、あれだけの人数が居たのにやけに静かだったな、皆緊迫した空気に呑まれていたんだろう、 そんな事を思いながら帰途につく。明日の事は考えたくなかったから。 明けて翌日。再び昨日と同じ9人が文芸部室に集った。最初から空気が張り詰めている中、キョンがおもむろに口を開く。 「昨日の続きだが、俺の答…「ちょっと待った!」 今日も横槍が入った。今度の発言の主は当事者のもう片方、涼宮さんだった。 「やっぱ昨日のあたしの告白無し!どーしてもってんならあんたの方から告白しなさい、すぐに振ってあげるから」 「ななな…いきなり何を言ってやがりますかこの女!!」 思わず声に出してしまった…と思いきやこれはキョンの台詞だ。皆も似たような感想を抱いたようで室内は俄かに騒然となる。 古泉君の入れ知恵かとも思ったけど、目と口を全開にした彼の表情を見る限りこの展開は想定の範囲外らしい。 「OK、まずは落ち着こうな、落ち着いたら納得のいく説明をしてくれ」 キョンの問いに涼宮さんがちらりと古泉君を見遣る。 「ちょっとカルチャーショック受けてあんたの価値が相対的に下がっただけよ。それに」 「それに?」 「あんた昨日のあたしの告白の後、真っ先に佐々木さんの方を見たじゃない。少なくとも気にしてはいるんでしょ、 だからあたしから解放して佐々木さんと付き合えるようにしてあげるって言ってるの」 涼宮さんが涙に潤む目でキョンと私を交互に睨む。彼女なりの、精一杯の強がりと後押し。空元気なのは明らかだ。私の顔は彼女にはどう見えているのだろう。 「成程言いたい事は分かった。ひねくれた気遣いの事も。だが俺もいい加減ひねくれてるんでな、気遣いを素直に受け取るのはちょっとばかり躊躇われるし、 なにより昨日覚悟を決めたばっかだ、一番大切にしたいヤツの前で偽りの告白は出来ん一一」 キョン、それはどういう意味だい? 「一一それにさっきの気遣いのお返しというか、お前も俺という枷から自由になってほしい一一」 キョン! 「一一だから敢えてはっきり言わせてもらう」 キョンが一呼吸おいた。 「すまん、俺は一一一 ・ ・ ・ その後は騒がしくも楽しい時間だった。 フラれたらしい古泉君を長門さんと九曜さんが頭撫で撫でしてる横で残りの女子一同で抱き合って号泣したり、キョンと公開キスさせられたり、 キョンが私を選んだ理由を問われて涼宮さんを選ばなかった理由だけを答えて殴られたり。 そうそう、私がキョンに抱き着こうとするのを故意か偶然か悉く阻止した橘さんと、 それを尻目にキョンに4回もヘッドロックを極めた鶴屋さんに軽く殺意を覚えたのは秘密だ。 数日後、キョンがあの時書いていたらしい手紙が届いた。内容は私を選んでくれた理由と、もし選択された事実と手紙の内容が違っていたら 何らかの妨害があった証拠だから、世界を正しく戻して欲しいという依頼だった。 涼宮さんや宇宙的、未来的力の前にどれほど効果が有るかは疑問だけど、抵抗するという意志が大事とのこと。 いやはや、彼のSOS団での苦労が偲ばれるね。 ところで肝心の私を選んでくれた理由だけど……これは内緒にしておこうか。 だって。 「そんなもん理性が自分を納得させる為に後付けで造ったに過ぎん、と俺は思う。強いて言うならそれが正しいと感じたからだ」 らしいからね。 「あの、閉鎖空間内でのシーンとかは無いんでしょうか?どうやって涼宮さんを誤魔化したとか」 「無い。でも台詞が有ったあなたはまだ良い方」 「そうですよ~私なんて名前だけなんですから」 「あたしはキョン君にヘッドロックかましたけどねっ!」 「フンッ、僕が居ないのも規定事項だ」 「一一一お留守番一一乙一一ナデナデ」 「……フン……グスッ」 「ふぅ危なかった、推敲の最後の最後で台詞削られた事に気付いて貰えたのです」
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「くく、思考は自由であるべきだと言うじゃないかキョン」 「くく、フリーダムとリバティは違うんだぜ佐々木よ」 意味不明な事を言いつつじりじりとにじりよる佐々木に対し、俺もまた何故かなんとなくじりじりと後退していた。 というかなんで俺はせっかくの休日の自室でまでこんな妙な問答をしているんだろうな? 『ほう。それで期末は大丈夫なのかい?』 『大丈夫さ、高校こそ塾に入れられないようにがモットーだ』 数日前そんなやりとりをしていたのは覚えている。 『おや? 僕との塾通いは不服だったのかな?』 『そうは言わんさ。けど高校生向けの塾となると電車を使わんと通えないからな、お前が良い例だろ?』 そうなったら小遣い制度が在廃の危機だと念押しされてんだよ。それに俺がいつまでも手のかかる奴のままだと思われるのも癪と言えば癪だ。 俺は俺でちゃんとそれなりに勉強するようになったのだぜ? そうだ。そういうアピールをしたはずだ。なのに気がつけば『俺の自室で勉強会』なんて流れになったのは何故だ? 毎度の事だが佐々木には口で勝てたためしがない。 しかし、しかしだ。 『なるほどな。さすが進学校』 『解ったかい?』 隣に座るのはまだわかる。 『ああ、ちょっと待ちたまえ』 膝を寄せてくるのもな。膝つきあわせてって言うだろ? 『こうだよキョン』 ペンを握る手に、その、手を添えるのはちょっと、いや、俺は佐々木に性差を感じたりなんかせんぞ。 何度も言うようだが佐々木は佐々木だ。 『だからねキョン』 しかし俺の背後で膝立ちになって覗き込んでくるのはだな、なんというか、あたるというか。 『なあ佐々木?』 『くく、なんだい親友? それになぜ対面に座りなおすのかな?』 その辺を指摘したところまたも佐々木による佐々木論大会が始まり、俺の思考は奴の言葉の弾幕に………… いやここで流されてはいかん。よくわからんが負けたらいけない気がする。 対面からじわじわとにじりよる佐々木に対し、俺が投げつけた抵抗が 『くく、思考は自由であるべきだと言うじゃないかキョン』 『くく、フリーダムとリバティは違うんだぜ佐々木よ』 そうやってじりじりとにじりよる佐々木に対し、俺はじりじりと後退しつつ儚い抵抗を試みたという訳だ。 というかなんで俺はせっかくの休日の自室でまでこんな妙な問答をしているんだろうな? はい回想終わり。 「ほほう、どう違うんだったかな親友?」 「フリーダムとは人が元から持ってる自由そのもの、リバティは束縛からの自由、お前が昔言ってたろうが」 どうも最近のお前は「リバティにあろうとする」為の考え方というより、やたらフリーダムな方に突っ走ってないか? そんなんじゃいつかどっかの団長みたいになるぞ。 「くっくっく。親友になら迷惑をかけても構わない、そうあるよう僕の思考から枠を取っ払ったのはキミだよキョン」 「まあ確かに66-299 「ちょっとセンチメンタルな別れを演じた風で騙されるかよ」とか、そんな事を言った覚えはあるがな親友」 ええい、なんてリベラルな奴だ。 『キョン、リベラルというのはラテン語のliber、つまり現代で言うところのリバティ、自由と同じ語源を持つ言葉だ。 その意味合いは時代や地域により異なるが、要は人は自分の意思を持つ、だから何者かに縛られることは無いという考え方だね。 権威主義や全体主義、社会主義と対応する言葉、そうした何者かに『束縛されることはない』という事。 それは束縛の存在を前提にし、そこからの解放を願う思考法と言えるんじゃないかな」 中学時代の佐々木の言葉がいいタイミングでフラッシュバックする。 我ながら器用な記憶力に敬服するぜ。 その言葉に佐々木はプレゼントを貰った子供のような笑みを返す。 「くく、その通りだよキョン。そしてキミのその記憶力は僕の中にあるfreeの語源、この場合、古ドイツ語のfrijazを刺激するね」 「あいにくだが古語なら国産モノだろうが俺の範疇外だ。ましてや古ドイツ語なんざ知るわけもねえぞ」 「無論そうだろう。だがエンターテイメント症候群のキミなら心当たりがあるのではないかな?」 ねえよ、ねえ。 「古ドイツ語、そう北欧の神話に出てくる『愛』を司る女神フレイヤもまたfrijazが語源なのだよ」 ああ確かに北欧神話ならゲームやらで出てくるな。しかし何の関係があるんだ。 「くくやはり婉曲に過ぎたか」 「なんか知らんが判じ物なら間に合ってるぞ」 するといよいよ佐々木がじわりと近寄りってきて 「ならばここは実力行使と」 「実力行使と聞いて!」 すぱん、気持ちよい音を立てて窓が開いた。 そこに居たのはもう二度と見たくもないと俺が思ってやまない立派な眉毛の 「誰が眉毛よこのキョロ介!」 「誰がキョロ介だこの眉毛!」 誰がどう見ても元1年5組学級委員長朝倉涼子であった。 あとそのアダ名をいつ鶴屋さんから聞いたんだ。 「……ええとキョン? ここは二階だったはずだが?」 ああそうか初見の佐々木は見ても判らんか。こいつはな。 「説明しようかと思ったが面倒だから帰れ朝倉」 「酷っ!」 瞬時に目と同じ幅の涙をたらたらと流す朝倉。 さすが宇宙人、器用な奴だ。というか前より感情表現の起伏がランクアップしてないか? 「ふむこの器用さと容姿と行動力、そしてキミとの気安さから鑑みて彼女も涼宮さん絡みの眷族なのかなキョン?」 お前の器用な推察力も十分その域だぞ佐々木。 「くく、賞賛と受け取っておくよ」 言いつつ佐々木は値踏みでもするように朝倉を見ている。 いや待て。朝倉がここに居るってことは。 「おい朝倉! まさか長門に何か」 「ええそうよ、エマージェンシーモード」 なんだと!? 「ああ心配しなくていいわよ」 「何言ってやがる。お前みたいな殺人鬼を呼び出すような緊急事態に」 しかし「失礼ねえ」と言いつつ、朝倉は2003年に全機退役した某超音速旅客機も真っ青な勢いの俺を制止する。 「乱入したい状況、けれどここで割り込むのは自分の役柄じゃない、その点では以前と同じなのだけれど」 歯切れの悪い事を言い、朝倉は言葉を捜すように中空を見やる。 「今回は、言ってみれば心のエマージェンシーなのよ」 なんか知らんエマージェンシー、緊急事態なら 「ああ成るほど。だいたい解った」 「佐々木?」 「つまり長門さんのジレンマ、葛藤する心が『自由に活動できるあなた』を彼女の代替として呼び出した、そういう訳かしら?」 「あら、随分察しがいいのね? 聞いていた以上だわ」 お前ら俺を放っておいて分かり合うな。 アイコンタクトするな。 説明しろ説明を。 「いや十分に説明したつもりなのだが」 佐々木はどこか困ったような顔をしている。 「なんなら長門さんに今すぐ電話してみたまえ。きっと笑って対応してくれるだろう」 「長門さんは笑ったりするような子じゃないけどねえ」 「あらそうなの?」 「そうよ」 なんでお前ら分かり合ってるんだ。 仮面優等生つながりとでも言うつもりかお前ら。 「さてね?」 「困った人が相手だからじゃないかしら?」 「ホント困った人ですね」 それから同時に「うふふ」と三人揃って笑い会う。 三人? 「けれど今回の行動も例によって独断専行よ。有益だったのは認めますが、これだけ行動すれば十分でしょう?」 「あら出やがったわね穏健派」 いつの間にやらそこに居たのは「穏健派宇宙人」こと生徒会の喜緑さんであった。 彼女はむんずとばかりに背中側から朝倉の襟をつかむと 「ではごゆっくり」 そのまま朝倉を引きずり窓の外へとすっと姿を消した。 俺と佐々木は窓に駆け寄ったものの、当然ながらその先にはただの日常風景が広がるばかりであった。 なんだったんだあいつら。 「場を乱したかったのではないかな?」 「確かに思い切りかき乱していきやがったのは事実であるが」 なんだヒマなのか宇宙人。そう言った俺をみやり、佐々木は「やれやれ」とばかりに肩をすくめる。 「キミはキミでもう少しでいいから思考の枠を外すべきだと思うよ」 そう言って、佐々木はご馳走を食べ損ねた子供のように憮然とした顔のまま苦笑するのであった。 )終わり 「キョン、どうだい喫茶店でも?」シリーズ 66-299 「ちょっとセンチメンタルな別れを演じた風で騙されるかよ」 66-286「ときにキョン、僕はそろそろお茶が怖いな」 66-377 「だから人のコーヒーを飲むな佐々木」 66-418 「ところでキョン。紅茶かコーヒーかと言えばだ」 66-461「解ったから舌なめずりはやめろ佐々木」 66-655「キョン、思考は自由であるべきだ」 66-922「フリーダムとリバティは違うぞ佐々木」 66-947『―――違い―が―解らない』